6月20日(土)五雲会『八島』

今週土曜日6月20日、宝生能楽堂にて催される「五雲会」にて、能『八島』のシテを勤めます。

能『八島』
シテ 和久荘太郎
ツレ 藪克徳
ワキ 福王和幸
笛  小野寺竜一
小鼓 船戸昭弘
大鼓 佃良太郎
地謡 金井雄資他

 

修羅物(武士や公達を主役に配した能。二番目物とも)は「負修羅(まけしゅら)」と「勝修羅(かちしゅら)」に分かれ、『八島』は「勝修羅」に分類される、勝ち戦を扱った曲で、シテ(主役)は源義経。

義経は、能の様々な曲に登場しますが、成人した義経がシテとして配されているのは、この『八島』一番のみ。
他は、義経役を子方(『安宅』『摂待』)やツレ(『忠信』)が演じたり、元服前の牛若丸(『鞍馬天狗』『橋弁慶』『烏帽子折』)を、やはり子方が演じます。

勝修羅物3番(他に『箙』『田村』)の中でも、位が高い曲ですから、若いうちにはさせてもらえない(といっても今年41歳)と思っていましたので、光栄に感じ、現時点での力を出し切って、精一杯勤めます。

曲の構成にその「位」が感じられます。前半のツレ(男)とシテ(老人・実は義経)の登場シーンが、脇能(『高砂』『養老』『弓八幡』などの神能)の形式をやや踏襲していて、その後、俗に「宿借り」という、『松風』『絃上』などの位のある曲と同様の形式が続きます。

 老人は、僧を自分の塩屋へ招き入れ、僧の所望によってこの地での合戦の有様を語りますが、『錏引き(しころびき)』という、能『景清』でも語られる、平家方の悪七兵衛景清(あくしちびょうえかげきよ)と、源氏方の三保谷四郎(みほのやのしろう)が力比べをするシーンの語りが聴きどころ。まるで、老人が、武者そのものになったように、仕方話で語ります。

自分が義経の亡霊であることをほのめかして僧の前から消え失せ(中入)、僧が夢うつつになると、義経が在りし日の甲冑姿で現れ、合戦の有様を激しく再現し、最後には春の夜の夢のように明けて消え失せます。

 

 義経・兜
これ、義経が愛用したといわれる兜です。もちろん複製。長男の凜太郎が産まれた時に買ったもので、毎年端午の節句に床の間に飾ります。

 

『八島』の後半、義経の幽霊が戦勝の有様を再現するシーンで、

地謡「潮に映るは」

シテ「兜の星の影」

という謡と共に、強い足拍子を一つ踏みます。
「兜の星」というのは、写真の、黒色と金色で構成された頭頂部に多数埋め込まれた鋲のこと。これが、水面にキラキラ映って光り輝いている爽やかな有様が想像されます。

 

6月20日(土)12時開演、『八島』は12時より。

他に、『歌占』髙橋亘、『杜若』辰巳大二郎、『大江山』東川光夫、狂言2番。

入場料5,000円(学生2,500円)

チケットお求めやお問い合わせはこちらまで。

みなさまお誘い合わせの上、ご来場下さい!


6月6日(土)10周年記念 涌宝会大会

今週土曜日の6月6日、水道橋・宝生能楽堂にて、私の社中発表会・涌宝会の10周年記念大会を催します。涌宝会として初めて、宝生流本拠地での開催。苦節10年、やっと念願が叶いました。

能2番、一調1番、舞囃子15番、独鼓3番、素謡・連吟・仕舞多数。私は、最初に番外一調『東北』を大鼓・亀井広忠氏にお相手願い相勤めます。

以下に能2番の番組を。


〔13時〕
能『加茂』
シテ 神谷恭子
ツレ 佐藤まりな
天女 岡田真理
ワキ 御厨誠吾
ワキツレ 野口能弘・野口琢弘
アイ 高野和憲
笛 藤田次郎
小鼓 大山容子
大鼓 國川純
太鼓 加藤洋輝
後見 影山三池子・和久荘太郎・土屋周子
地謡 辰巳満次郎・山内崇生・野月聡・小倉健太郎・内藤飛能・辰巳和磨・朝倉大輔・渡邊陽介


〔16時10分〕
能『鵜飼』
シテ 森下光
ワキ 宝生欣哉
ワキツレ 大日方寛
アイ 高野和憲
笛 一噌幸弘
小鼓 大倉源次郎
大鼓 亀井忠雄
太鼓 大川典良
後見 宝生和英・和久荘太郎
地謡 大坪喜美雄・辰巳満次郎・佐野登・小倉伸二郎・澤田宏司・辰巳大二郎・金森隆晋・菊池尚希


能『加茂』のシテ、神谷恭子さんは、白百合女子大の能楽サークルで熱心に稽古し、卒業後社会人でのブランクを経て、名古屋の稽古場で私の門を敲いてくれました。
持ち前の集中力と熱心さで、能らしい、強い舞台が期待できそうです。
本後見には、白百合時代の先生、影山三池子師を迎え、文字通りシテの後ろから温かく見守ってくれます。

前ツレの佐藤まりなさんは、名古屋市立名東高校の能楽研究部に3年生から入部して以来稽古を続け、この度初面・装束。緊張していることでしょう。
涌宝会の歴史は、公には10周年と言っていますが、実はお弟子さんの稽古自体は15年ほど前からしています。発表会も、浴衣会・謡初など、内輪の会をその時から続けています。私25歳の内弟子時代、家元の故宝生英照先生からお許しを頂き、名東高校と岡崎の稽古から始めました。その時から稽古しているのが佐藤さんで、現在もご本人はお若いのですが、私の一番古いお弟子さんと言えます。

天女(後ツレ)の岡田真理さんは、愛知教育大学の能楽サークルで佐藤耕司師(名古屋在住職分で、私の元々の師匠)の稽古を受け、佐藤まりなさん同様、15年前に岡崎の稽古を始めた時からのお弟子さん。既に、涌宝会にて能2番(花月・枕慈童)を舞っていて、近年教授嘱託免状も取得したベテランですが、袖を翻すような女性らしい役をまだしたことがないということで、今回、「加茂だけに」白羽の矢を立てました。可愛らしく清々しい天女が期待できます。

能『鵜飼』の森下光さん。この方は、能楽界では流派・玄人・素人問わず有名人です(私よりも・・・)。幼少時から、親御さんやおばあさまに連れられて能楽鑑賞に親しみ、今も能を心の底から愛していて、能の面白さを世の中に広く伝えようとする伝道者で、私のことも(ついでに?)宣伝してくれて、腹心として欠かせぬ存在です。岡田さん同様、近年教授嘱託免状を取得して、稽古年数は驚くほど短いのですが、「立場が人を作る」を実践して、驚異的なスピードで実力を付けて、今回初能・初面・初装束に臨みます。

 

その他にも、ご紹介したい方が大勢います。
ぜひ、当日お運びください。

入場無料、9時半開演、出入り自由です(録音・撮影は禁止)。

番組は、当日受付にてお渡し致します。