足袋は世につれ‥
息子の為に買っておいた足袋数足が、開封もせずに使えなくなってしまいました。ここ数ヶ月であっと言う間に成長し、今は仕方無く間に合わせで私の足袋を使っています。
私の足袋は、足型をとった特注品で高額の為、できれば息子は市販の物で合うものがあると良いのですが、どうやら私とはまた違うタイプの特殊な足型のようで‥。
ストレッチ足袋(ニット生地の伸縮性があるもの)ならば合うのでしょうが、能のハコビ(摺り足、運歩のこと)の稽古には不向きです。能のハコビは、足袋と舞台の板との間にかなり強い圧力がかかりますので、足袋が足からずれていきます。後退(バック)すると、場合によっては脱げていきます。また、摩擦熱で程なく穴が空きます。
最近、足袋の底地(舞台との接地面)に滑り止めのドットが付いている足袋も見かけますが、摺り足は不可能です。自然、足を少し浮かすクセが付いてしまいます。やはり綿が一番。今はかなり安価でも比較的しっかりした綿足袋が売っています。
私の好みは、裏地(足袋と足の接する面)は厚地のネル生地(ネル裏)。ネル裏は、一般には防寒用として流通しますが、季節を問わず使用します。
そして、コハゼ(足袋を止める金具)は3枚。
市販の足袋は、通常4枚コハゼですが、敢えて3枚に。宝生流の家元が代々誂えている老舗の足袋屋で私も誂えていますが、私が師事した先先代宗家の足袋が3枚コハゼだったこと(身の回りのお世話をしていたのでよく覚えています)、また、宝生流の明治生まれの名人が書いた随筆に、「能役者は昔は3枚コハゼだった」という記述を見つけ、職人さんに伺うと、やはりそうだったようです。4枚、5枚は踊りや歌舞伎の方の好みで、座る時間が長い能役者は3枚を好んだとのこと(もっとも、江戸だけの事情かもしれません)。
確かに、3枚コハゼは足首の締まりが少ない分、長時間の座姿勢には大変楽です。
足首が通常よりもすっきり見えるのも粋(いき)とされたようです。
江戸の流行の一部を歌舞伎役者が作ったのは周知の事実ですが、幕末には宝生大夫(家元)が履いた袴の形が粋、といってそれが流行ったこともあるということが拙宅の古い本に書いてあります。
なるほど、能役者の袴は仕舞袴といって能専用の仕立てで、両脇のマチが低い特殊な作り。足袋といい袴といい、他と違うことが珍しく粋だったのかもしれません。
「足袋は世につれ 世は足袋につれ」