学生さん
昨日、今日の2日間にわたって、全国宝生流能楽連盟(全宝連)という、宝生流の能楽学生サークルの全国組織の発表会が京都・金剛能楽堂にて開催され、学生さんが日頃の稽古の成果を発表なさいました。
昨日の1日目は、残念ながら豊田で能『芦刈』を舞った為に拝見できませんでしたが、本日は、指導している学校のほか、他大学の発表もほとんど見ることができました。
中でも気になった、仕舞『桜川』を舞ったある初対面の学生さんに後で声を掛け、「あなたは能をよく観ているでしょう」と聞いたら、「はい」と。やはり。
その『桜川』には、いわゆる現代的な思考の「こう見せたい」というあからさまな意図や、奇をてらったようなところが無いのに、ふっと景色が見えました。それ以前に身体の運用法(使い方)もよく人の舞台を見て研究しているな、と感じました。
玄人、素人の別なく、能の上達には、舞台を数多く見ることが欠かせません。「能」有っての「仕舞」、「能」有っての「素謡」です。能をよく観ている方の舞台は何かが違うのですぐに分かります。
上手でない舞台も勉強になります(失礼)。何か得るところが必ずあります。稽古だけではなかなか上達は望めません。
この学生さんの指導者も良いのでしょう。この学生さんが失礼ながら作品だとすると、作者の「丁寧に」という思いが伝わりました。料理でも、家具でも、書画でも同じことではないでしょうか。
私としては、色々考えさせられる学生さんの発表会でした。
明日から
令和初の台風・3号が近づいています。西日本の方は気が気でないことでしょう。お気をつけ下さい。
私は、明日から3日間、役が続きます。
明日は、東京・宝生能楽堂にて能『土蜘』の頼光、
明後日は、愛知・豊田市能楽堂にて能『芦刈』のシテ、
明後日は、京都・金剛能楽堂にて仕舞『笠ノ段』。
そう、台風に向かって西に移動するのです。どこですれ違うことやら。台風の動きは思ったよりも早いようなので、明日には関東を抜けている可能性が高いようですが、梅雨前線の影響もあり、大雨には油断できません。
台風と聞くと、昨年9月の名古屋にての「第5回 和久荘太郎 演能空間」当日に名古屋に直撃したことが思い返されます。東海道新幹線は午前中に異例の全線運休判断。幸い、午前中に申合せ(リハーサル)を設定していたため、東京からの役者は朝イチで新幹線に乗って頂いたので、役者は1人も欠けることはありませんでしたが、東京方面からのお客様はほとんどご来場頂けませんでした。
13時半開演のところ、前日の予報では11時名古屋上陸予定でしたが、天が味方したか、台風のスピードがどんどん遅くなり、実際に上陸したのは終演後の16時過ぎ。なんとか無事開催出来て、終演後、お客様に妻と共にお声掛けして、急ぎお帰り頂きました。
400席ほど販売済みのところ、ご来場者は約200名。あの未曾有の台風のなか、よくお越し頂きました。未だに時々思い出しては、皆さんに感謝しております。
今年の「第6回 和久荘太郎 演能空間」(9月23日祝日。東京・水道橋・宝生能楽堂)は、なんとか無事に開催したいものです。
「渋谷能」第四夜 能『藤戸』
7月26日土曜日、渋谷の東急セルリアンタワー能楽堂にて、Bunkamura30周年記念の「渋谷能」の第四夜が開催され、宝生流の能『藤戸』が上演されます(シテ 高橋 憲正)。
(詳細はこちらをご覧下さい。)
私は、僭越ながら地頭(じがしら)を勤めさせて頂きます。
とかく、一般のお客様はシテ、ワキなどの立ち役に目がいくことと思いますが、能1番の成否を分けるのは地頭の仕事なのです。特に宝生流は、地謡に重きを置いており、中でもその統率者の地頭にはシテと同格かそれ以上の力量を求められます。
なんて、自分でハードルを上げているようですが、私の芸人魂を鼓舞しているのです。
『藤戸』は、宝生流のみならず、どの流派でも重く扱う曲ですから、ましてやその地頭となると責任重大。まだこの世界では若手と呼ばれてしまう44歳ですが、今出来る力を振り絞って稽古と本番に臨みます。
ご来場を、シテの高橋 憲正さんと共に心よりお待ちしております。
能『芦刈』を舞います(6月29日土曜日 豊田市能楽堂 「納涼能」)
来週土曜日の6月29日、豊田市能楽堂の「納涼能」にて、能『芦刈』のシテを勤めます。(詳細は、豊田市能楽堂ホームページをご覧下さい。)
豊田市能楽堂でシテを舞わせて頂くのは、2年前に能『舎利』を舞わせて頂いてから今回が2回目。宝生流の定式能や、自分が主催の催しではなく、このように能楽堂や自治体からご依頼頂いてシテのお役を頂くというのは、本当に役者冥利に尽きます。有り難いことです。きっと裏には、ご推薦頂いている方がたくさんあってのお引き立てであること充分理解しており、心から感謝し、大事に勤めたいと思います。
『芦刈』は、夫婦情愛の物語。貧乏によって図らずも別離してしまった夫婦が難波の里で偶然再会します。
私が演じる男は、零落の末、芦(水生植物のアシ。ヨシとも)を売って糊口を凌ぐ生活。妻は名家の乳母となり出世して輿に乗る身分になっているところへ、男は知らずに、面白く笠尽くしの芸を見せながら芦を売ります。
それと気付いた妻のたっての希望により、男は芦を直接妻の乗った輿に届けようと近づくと、男は妻であることに気付き、我が身を恥じて小屋に隠れてしまいます。
妻と男は、和歌のやり取りによって心を和らげ、再び夫婦となり、男は烏帽子・直垂(武士の正装)を着て、妻とその一行の前で舞を舞い、めでたく都に帰ります。
先日の『草紙洗』では、小野小町役でしたので、当然ながら面(おもて。能面のこと)を掛けましたが、今回は零落した若い男役ですから、私にピッタリ!面は掛けずに、素顔で演じます。これを「直面(ひためん)」と称して、自分の顔を面のつもりで扱う心得があります。感情表現を露わにしてはいけないのです。面を掛けるよりもかえって難易度が上がる、と考えることもできます。
奥さんの役は、内藤飛能さん。背の高いグラマラスな奥さんです。2年前の『舎利』では、内藤さんは韋駄天、私は韋駄天に退治される足疾鬼(そくしっき)という悪い鬼役。能は本当に色々な曲や役がありますね。
豊田市能楽堂は、設備がきれいで、見所(けんしょ。客席)の大きさもちょうど良く、役者の息遣いが感じられる素敵な舞台です。
全指定席。現時点でまだ少しですが席は残っているようです。ぜひお出かけ下さい。チケットのお申し込みは、こちらまで。
源 頼光役を勤めます(6月28日金曜日 夜能 宝生能楽堂)
今月末の「夜能」にて、能『土蜘』の源頼光(みなもとのらいこう)役を勤めます。シテは敬愛する先輩・小倉 伸二郎師。(番組の詳細はこちらをご覧下さい。)
この頼光役にはなぜかご縁があり、なんと9回目。シテの土蜘の精との立ち回りで一太刀浴びせますが、蜘蛛の巣を投げかけられて、家来の一人武者に物語りします。
9回も同じ役を演じると、さぞやり方が決まっているだろうと思われますが、自分の中では毎回感覚的には変化します。役の手応えや、身体の動く感覚、謡の運びなど。それは、自分自身の身体や芸質が常に変化(進化?後退?)しているからだと思われます。
「いつやっても同じようにやれるべき」というような流是というか、昔からの言葉がありますが、それをまるまる鵜呑みにはできません。やはり世阿弥のいう「命には終あり 能には果あるべからず」を信条としたいと思います。
まあ、小難しいことは抜きにして、初めて能をご覧になる方も単純に楽しめる曲ですので、ぜひご来場ください!
猫の額1
最近、拙宅の小さな庭を整理して耕し、和の草花を植えています。
枝垂紅葉(シダレモミジ)。ゴールデンウィークに娘と日比谷の花屋さんで良いのを見つけました。秋の紅葉が楽しみ。
シャガ。能『芦刈』『敦盛』のシテの持ち物です。来週の豊田市能楽堂『芦刈』でも、生花を持ちます。春に白い花を咲かせます。久良岐能舞台の庭園に自生しているのを職員さんから分けて頂きました。
石蕗(ツワブキ)。冬に黄色い花を咲かせます。名古屋駅の花屋で見つけ、新幹線で持ち帰りました。カエルの置物がピッタリ。
クチナシ。これも名古屋の花屋から。良い香りがします。
桔梗(キキョウ)。これも名古屋から。
(続く)
帰宅したら
父の日は、毎年名古屋宝生会定式能の日。今年は能『草紙洗』で小野小町役を勤めていました。
昨日、名東高校と愛知教育大学の稽古をして最終の新幹線で4日ぶりに帰宅すると、寝室に娘からの手紙が。
娘とはすれ違いで、林間学校の真っ最中。帰ったら抱きしめてやろうかな。
能『草紙洗』おかげさまで
昨日は、おかげさまで能『草紙洗』(名古屋宝生会定式能)はなんとか無事舞い勤めました。大勢のお客様のご来場、感謝申し上げます。
身に余る大曲で、東京在住のある先輩からはまだ私には早い旨のご忠告をいただきましたが、だからこそ覚悟を持って稽古に精進しました。
歌舞伎のように長期公演が出来ず、一期一会のその日一日で消えてしまう舞台芸術。その時々の私の舞台や成長を、ライブでご覧いただけるお客様には本当に感謝いたします。
ご都合がつかず、「また機会がありましたら」とおっしゃっていただくことがよくありますが、同じ曲を一生に2度舞うことは滅多にないことですので、心苦しく思います。
次は、12日後の6月29日(土)能『芦刈』を豊田市能楽堂にて舞います。ぜひご来場ください!