3つの顔

【日記】
3月16日(土)
今日は『野守』シテ。朝起きたら声出ない。風邪かしら。でも奥さんに言うと心配するから言わないでおこう。

何しろ、今日は3つの顔を持つ男だから。

10時から凜太郎の卒園式。9時に行って良い席を確保して、ビデオ係。「思い出のアルバム(い~つの~こと~だか~、思い出してご~らん~、という有名な曲)」を聴くと、我慢しても涙が出ちゃう。俺も幼稚園の卒園式で歌ったな。今日は、自分が32年前に卒園した小田原のこゆるぎ幼稚園の先生が『野守』を観に来てくれる。不思議なご縁。
凜太郎も小学生か。この前産まれたばかりなのに。

16時半から『野守』。そろそろ『野守』モードに入らなくては。14時、「お父さんは、今日お爺さんと鬼になってくるよ」と言い残していざ宝生能楽堂へ。だんだん喉が温まってきたぞ。

装束を着けてもらい、鏡の間で床几にかかり、面を掛けて自分の姿を映す。これ大事な儀式。お能は「なりきっちゃいけない」。そんなことないだろう。自分がなりきらなくて、お客様が入り込めるか。などと、鏡の中の自分の姿を見て余計なことを考える。

前シテ、序章は春の長閑な春日野の雰囲気を出せただろうか。徐々に鬼の本性を現し始めなければ。
作り物に中入。後シテの鬼の装束に着替える。信頼できる後見に着けてもらったので安心。
後シテ、やはり声が出にくいが、明日の名古屋の舞台のことは考えずに、潰すつもりでやってしまえ。あれ、やり過ぎたか。気合が先走ったかな。まだまだ若いからいいか。
ワキも信頼できる人だから受け止めてもらったし、囃子も信頼できるメンバーだから、好き勝手に謡わせてもらった。地謡も凄かった。またこのメンバーで違う曲をやってみたいな。

色々言って下さる先輩たち。ありがたい。まだ見捨てられていない気がする。次も頑張ろう。

19時から、さるご令嬢の結婚披露パーティーに妻と出席。心からおめでとう。心から幸せになってほしい。良い仲間たちと、楽しいひと時。みんな老けたなあ。俺は若いぞ。みんなそう思ってるのかな。

明日は始発の新幹線で名古屋宝生会。そろそろ寝よう。


ついでに・・・

 明日3月10日(日)は月並能にて、凜太郎が『善知鳥』の子方を勤めます。

シテは、以前も『三井寺』でご丁寧なご指導をいただいた金森秀祥師。『三井寺』では母親役でしたが、『善知鳥』では父親役(しかも幽霊)。

『善知鳥』は、昨年、立春能にて影山三池子師のシテで勤めております。

昨日の申合せを見て、昨年よりは少し成長したかな、と感じました。

実は今月から来月にかけて、凜太郎はお役がかなり重なっており、計画的に稽古しておりますが、父としては心配でしようがありません。

明日の『善知鳥』が済むと、
4月2日(火)にNHKFMの「能楽鑑賞」にて放送予定の素謡『唐船』の子方(日本子)の録音(シテ・金井雄資師)。
4月6日(土)は国立能楽堂定例公演にて、『高野物狂』の子方(シテ・渡邊荀之助師)。
4月20日(土)は五雲会にて、『桜川』の子方(シテ・渡邊茂人師)。

日が近いのと、『善知鳥』以外すべて初役なので、かなり気を遣います。

特に『唐船』の録音は、デジタルで永久に残ってしまいますので、誤魔化しがききません。
通常、素謡は子方の役も大人が勤めますが、今回は本物の子方で録音してほしいというNHKのご要望による、有難いお話。

ラジオの録音は、必ず謡本(能の台本)を見て謡うのですが、まだ幼稚園児なので読めませんから、特別に凜太郎用に作った本で稽古。
しかも、シテとの同吟もありますので、ご迷惑はかけられませんから、連日、稽古、稽古です。

まだ小さいので、無理をさせてはいけないとは常々考えておりますが、お役を頂くのは大変光栄なことですし、ある時凜太郎が不意に、

「おとうさん、ぼくに来たお役のお話は、絶対に断らないでね。」

と言ったことがあるのです。

稽古では当然泣くこともありますが、母親がしっかりと抱きとめて、役割分担で乗り切っています。

少し不安なのは、だんだん「お父さんは結構ですから」と頼まれることが出てくるのでは、ということ。
お願いですから、セットで頼んでください。ついでで結構ですので・・・。


3月16日(土)五雲会 『野守』

来る3月16日(土)宝生能楽堂(東京・水道橋)にて催される五雲会にて

  能『野守(のもり)』

のシテを勤めます。

前半が「野守の老人」役で杖を突いて出、後半は「鬼」です。

『野守』は、世阿弥作の「鬼」の能。鬼と言っても、ただの怖い鬼ではなく、神様や心霊に近
い、宇宙観を感じさせるような存在。天地四方全てを映し出す鏡を持って出現します。

 羽黒山の山伏(ワキ)が、奈良の葛城山に峰入りする途中、春日野(今の春日大社のある辺り)で、野守の老人(前シテ)と出会います。由緒ありげな池を見た山伏が、老人にその池の名を問うと、自分のような野守が朝晩姿を映すので、「野守の鏡」ということ、また真の「野守の鏡」とは、昼は人となってこの野を守り、夜は鬼となってこの塚(舞台上の作り物)に住む、という鬼が持っている鏡のことだ、と語ります。

老人は更に語り、

「昔この野で鷹狩があった時に、鷹を見失った狩人が一人の老人に出会い、行方を尋ねると、老人はこの池の底に鷹がいる、というので、狩人が池にバッと寄り覗き込むと、本当に池の底に鷹が見えた。よくよく見れば池に映った木に、鷹がとまっていた。

 はしたかの 野守の鏡 得てしがな 思い思わず 他所ながら見ん

という歌も、この鷹を映した故だ」

と語り、昔を思い出し涙を流し、自分がその野守の鬼であることをほのめかして塚の中に消えます。(中入)

 夜になり山伏が祈ると、「野守の鏡」を持った野守の鬼(後シテ)が現れて、天地を映し出し、その鏡を山伏に与えて、大地をかっぱと踏み鳴らして再び奈落の底に帰って行きます。

会は正午始、『志賀』『花月』『羽衣』『野守』の順です(途中入退場可)。『野守』は、16時30分~17時40分の予定です。

お誘い合わせの上お越し下さい。

入場料は、全席自由席で5,000円(学生2,500円)です。

お問い合わせ、チケット購入は当ホームページへ。


催し名決定!

 かねてよりお知らせしております、本年9月22日(日)名古屋能楽堂にて主催させていただきます個人演能会ですが、催し名を、

  仮称「和久荘太郎演能会」

    から
    
 

  

  正式名「和久荘太郎 演能空間」

といたします。

能楽堂という、非日常の「空間」に配した三間四方の「能舞台」を通して、無現の広がりのある舞台成果を、お客様のイマジネーションのお力をお借りして、共に作り上げていきたいと思います。

今後とも応援のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。


良い仲間

 今宵、「新旧助手会」という名の楽しい親睦会がありました。

当ブログには、今までほとんど書きませんでしたが、2年間、東京藝術大学音楽学部・邦楽科の助手を務め、この3月で任期満了します。

様々な専攻(長唄・長唄三味線・邦楽囃子・生田流筝曲・山田流筝曲・日本舞踊・尺八・雅楽・能楽観世流・能楽宝生流)にそれぞれ助手がいて、私がほぼ最年長でしたが、皆忘れ難い良い仲間です。

朝8時半から18時の勤務を週2日。それ以外にも様々な演奏会や、試験・入試などの助演・伴奏・事務仕事があります。日にちは取られましたが、ただ能の道に精進するだけでは得ることのできない経験をたくさんさせていただきました。

素晴らしい教授陣や講師陣とも交わる機会をいただき、大変勉強になりました。
また、先生方と身近に接して、いかに現在の大学の先生が大変なご苦労をなさっているかがわかりました。

まだ3月末まで、入試や御前演奏などの大仕事がいくつも残っていますが、何だか名残惜しい気もします。

このような機会を与えてくださった、能楽宝生流教授の武田孝史師に心より感謝いたします。