カナブン②

カナブン事件第2弾。

 

一昨日、甲府のお弟子さんの稽古の帰り、新宿からの山手線車内。横長の座席の前に立った私。

目の前の若い女性二人が、突如として「ビクゥッ‼︎」と凄い形相をしたのを見て、私も「ビクゥッ‼︎」としてしまいました。

面識が無いらしいその二人は、やがて何事も無かったかのように普通の表情に戻ったのですが、私は何が起きたか程なく理解しました。

 

ふと、女性の一人に目をやると、なんと、彼女の長い髪の毛に、エメラルド色の光沢を持った美しいカナブンさんが!まるで髪飾りのようにへばりついていたかと思えば、悠然と自分のテリトリーの如く動き周り始めました。

 

隣のもう一人の女性も、やがて気付いたようで、加藤茶のような二度見をしたあと、少し間を置いて席を立ってしまいました。(「逃げたな!」と私の心の声)

そして、空いた席には、危険を察知しない別の若い女性が、テトリスのブロックの如くスッポリ座りました。

 

さて、ここで私の(無駄な)正義感が湧き上がってきて、はてどうしたものかと思案。

紳士然として、

「お嬢さん、美しい髪にカナブンが付いていますよ」

などと声を掛けたり、

「いいですか、お嬢さん、私が今から言うことを驚かないで聞いて下さい。髪にカナブンが。」

とか言っても、いずれにせよ最初は変質者扱いされて、カナブンさんに気付いたら、女性は叫び声を上げて、カナブンさんがそれにたまげて「ぶ〜ん」などと飛翔したら、それこそ車内はパニックになり、私は一時的に警察のお世話になるかも、

かと言って、このままこの場にいれば、先日のカナブン事件第1弾のように、必ずや、私の反射神経が勝手に身体を動かして、女性を打擲し、いずれにしても警察のお世話は免れまい、と思い、結果的にその場を逃げ去って、隣の車両に移動したのでした。

 

今なお、これが正しい判断だったのか、自問自答しております。


カナブン①

最近、カナブンづいています。

 

「カナブンづく」

という日本語は、私の造語でしょうが、最近起こったカナブンに関する事件2つ。

 

先日の久良岐能舞台にてのお弟子さん(女性)の稽古中、大きなクマンバチ(実はカナブンさん)がお弟子さんの周りを飛翔し始めたので、

「動かないで。刺激すると刺されますよ」

という言葉を発する間も無く、お弟子さんは広げた扇で払い始めたので、

「いけない、このままではお弟子さんが刺される!」

と即座に判断し、お弟子さんの腕に止まった瞬間、若い頃武道で培った私の反射神経(脳を通さない一瞬の脊髄反射)が、勝手に反応し、閉じた扇で、

「スパーン‼︎」

と、打ち付けました。

見事命中、かと思いきや、カナブンは「ぶ〜ん」と飛翔して舞台天井のライトへ。

 

私は、うら若き女性の腕を、しこたま打擲しただけでした。(Sさん、申し訳ありませんでした_| ̄|○)

 

(続く)


有難うございました③(第4回 和久荘太郎 演能空間)

(続き)

『自然居士』の笛は、森田流の若きホープ・杉信太朗師。今回、『自然居士』『花月』とも、羯鼓(かっこ。2本の撥で腹に付けた鼓を打つ軽妙な舞事)が重なる為、(実は、ここぞとばかりに)私からたってのお願いをして、「モヂリ」という、普段と全く異なる譜(メロディー)で演奏して頂きました。

小書(こがき。特殊演出)ではなく、本来、笛方が興に乗った時に、打ち合わせ無しに即興で演奏するものですが、失敗の無いように、事前にしっかりと打ち合わせました。

 

小鼓は、演能空間当日の直前に人間国宝に指定された、大倉流宗家の大倉源次郎師。

大鼓は、葛野流家元の亀井広忠師。

このお二人で、自然居士の丁々発止の人商人とのやりとりを、大変盛り上げて頂きました。むしろ、この囃子に対抗するのに非常なエネルギーを労して大変。お二人に私の力を試されていると感じ、気合いが入りました。

 

そして、肝心要の地謡は、金井雄資師の地頭、辰巳満次郎師の副地頭という最高の陣形。強い地で、複雑な現在物の一番を作り上げて頂きました。

 

後になりましたが、凜太郎の能『花月』の陣形も、この上なく素晴らしかったこと。笛・一噌隆之師、小鼓・鵜沢洋太郎師、人間国宝の大鼓・亀井忠雄師。そして、宝生流家元・宝生和英師の地頭。

ワキの殿田謙吉師は、再会した息子・花月に対する慈愛のオーラが後見座の私からもひしひしと伝わったので、お客様からはなおのことでしょう。

 

今回は(も)、能は総合芸術、演者のお力に加えて、お客様の息を詰めたり、涙したりの、ライブのエネルギーで成り立っていることを、改めて感じることが出来た、私にとっての最大の勉強の機会となりました。

 

心より、皆様お一人お一人に感謝申し上げます。


有難うございました②(第4回 和久荘太郎 演能空間)

(続き)

野村萬斎師のご子息・裕基氏のシテによる、狂言『二人袴』は、石田幸雄師をはじめとした重鎮によるアドとの競演で、良い味を出して頂きました。見所(けんしょ。客席のこと)は大爆笑。

 

仕舞3番の初めは、私の一つ年上の先輩・小倉伸二郎師の『笠之段』。誠に風情ある舞。来年の「第5回 和久荘太郎 演能空間」では、伸二郎師に兄貴役をお願いして、『小袖曽我』と『夜討曽我』の通し狂言(歌舞伎風に言うと)をご快諾頂きました。

仕舞2番目は、若手有望株・川瀬隆士師の『八島』。若者らしい、溌剌とした義経で、合戦の景色が見えるような舞。

そして仕舞3番目は、いつも私のツレをお願いする髙橋憲正師の『松風』。この人の舞台の花は、私には無い独特の色香を持っています。

この仕舞3番を、宝生流重鎮・髙橋章師の地頭、金井雄資師の副地頭という重厚な地謡で舞って頂きました。

 

そして、私の能『自然居士』。

身売りした少女役は、水上優師のご子息・嘉(よし)君。小3で、子方の花盛り。私のシテは、彼に食われてしまったようです。

ワキの人商人(ひとあきんど)役二人は、下掛宝生流家元の宝生欣哉氏と御厨誠吾師。欣哉師の、シテに拮抗するエネルギーは凄いものがあります。武道的に言うと、少しでも隙を見せたら打ち込まれてしまう、という位の気迫をぶつけて下さいました。

ワキツレの御厨師も同様。この人の謡の圧には、無くなった御師匠(宝生閑師)と現師匠お二人の要素が詰まっていると感じます。

 

間狂言(アイ)は、『花月』に続いて野村太一郎師。お若いのに、軽妙で品のある芸の持ち主で、敢えて能2番ともお相手をお願いしました。

(続く)

 


有難うございました①(第4回 和久荘太郎 演能空間)

皆様のお陰をもちまして、去る7月23日(日)宝生能楽堂にて開催の「第4回 和久荘太郎 演能空間」は、無事終了致しました。

ご多忙な中のご来場、誠に有難うございました。

 

能楽評論家の金子直樹氏による、誠に興味深い解説は、観能時の、想像力を膨らませる大きな助けになったことと思います。優しい語り口には、私の社中や知人にもファンが多く、次回も楽しみとのお声を多数頂いています。

 

能『花月』は、11歳になったばかりの凜太郎に、シテを勤めることをお許し頂いたことに、家元には心より感謝申し上げます。何とか無事勤め、本人にとって、能の道に進む動機付けの一つになることでしょう。

 

一調『氷室』は、辰巳満次郎師の強い謡と、金春流太鼓家元・金春國直師との一騎打ち。奇しくも、先日東京にて異常気象で雹や霰が激しく打ち付け、そのさまを想起させる激しい演奏でした。

(続く)