伊勢神宮奉納

先日9月23日(日)、伊勢神宮内宮・参集殿にて、我が涌宝会として、能楽の奉納の催しに参加し、舞囃子6番・仕舞8番・連吟1番を奉納しました。私自身は、それらの地謡と、小鼓の独調2番をお相手させていただきました。
<舞囃子>
『高砂』 湯浅景介
『玉葛』 吉村咲子
『竹生島』 森下光
『胡蝶』 金子志摩子
『松虫』 神谷恭子
『春日龍神』 松本杏
<仕舞>
『嵐山』 並河真有子
『小袖曽我』 木下知佳・内藤帆南
『三輪キリ』 木下めい
『鶴亀』 浜口孝司
『西王母』 武田美佳
『猩々』 松浦茂樹
『岩船』 酒井千絵子
『杜若キリ』 山内恵理子
<連吟>
『羽衣キリ』 涌宝会有志
皆、普段の舞台とは違う雰囲気で、伊勢神宮の神気を感じながら気持ちよく奉納できたようです。
伊勢内宮・参集殿
伊勢神宮・内宮・参集殿
伊勢・名東生
奉納前、楽屋にて名東高校能楽研究部の面々と。
伊勢直会後
終演後、直会を済ませ、帰りのバスに乗り込む直前。涌宝会から出演の皆さん。


ニンニク注射

「ニンニク注射」ご存じですか?
昔清原和博さんがここぞという試合前に使用して有名になった、という記憶があります。
やっと涼しくなりそうな気配です。あまりの暑さに皆忘れていますが、この夏の初めは、冷夏かと思うくらい涼しくて、このまま行けば良いなと思ったものですが、そうはいきませんでした。
やはり、体調を崩される方が多いようですね。私のお弟子さんでも、夏風邪を召される方が大変多く、誠に心配しております。
かく言う私も、どうも体調がすぐれなくて、食事や睡眠は変わらないのに痩せてしまって、疲れるようになったというか、これはもしや年齢的な体の変わり目かしら、とショックを受けていました。
先日の能『龍田』を勤める前日、このままではいけないと急に思い立って、いつかは、とかねてより考えていた例のニンニク注射を受けるべく、近所の内科へ!
ランクが500円から3,000円まで6種類ほどあり、明日が本番だから、明朝即効性のある3,000円のをお願いするつもり、と伝えたら、今日はサービスで、と1,200円でワンランク上の1,500のものを注射してくれるとのこと。
「注射」と言っても、実際にはベッドに横たわり、点滴。
「ニンニク」というので、本番前に身体がニンニク臭くなったらどうしよう、と勘違いしていましたが、薬液が身体を巡る際に、点滴されている本人のみ、ニンニクに似た臭い(正体はビタミン)が鼻を突くのがその名の由来らしく、ニンニクは一切入っていないとのこと。
点滴が始まると、本当にニンニクに似た臭いがしてきました!薬液が減っていくにつれて、徐々に頭がすっきりしてくる感覚があります。20分ほどで終了。かなり元気になりました。
さて、次の日朝起きたら、喉が風邪の気配。しかし、朝一番でプレミアムのニンニク注射を受けたら、気持ちも身体も力が漲ってきて、無事『龍田』を勤めることができました。
「龍田姫が実はニンニク注射を受けてきた」と聞くと、イメージを壊してしまいそうで告白に迷いましたが、夏バテでお困りの方は、一考の価値あり。
思い込みの「ブラシーボ(偽薬)効果」も多少あるかもしれませんが、人間時には思い込みも大事。
「プレミアムのニンニク注射」を打ったんだから元気いっぱい!と頑張れるなら良いじゃありませんか。
念の為看護士さんに、依存性は無いか聞きましたら、薬剤に依存性は無いが、精神的な依存性は人によってあるかも、と。
まあ、万事皆そうですね。
アスリートや我々舞台人も、ジンクスから逃れて、本番で最大の能力を発揮できることが難しいから、色々頼りたくなるのです。
ほどほどに、と自分に言い聞かせました。


テレビの力

流行ってますね、「杉ちゃん」。
ご存じ、
「ワイルドだろ~」
の人ですね。
私は、例の如くつい最近知りました。
ずいぶん前から、近しい先輩がモノマネしていましたが、何のことか(若しくは何が面白いのか)さっぱりわかりませんでした。
どこで覚えたのか、下の娘(4歳)が独り、パズルなどしながら、
「ワイルドだろ~」
と時々呟きます。
テレビの力はすごいですね。
遂に、野村萬斎さんのことを幼少から子供番組(NHK教育)で見ていて、狂言を通じて能に興味を持った、というお弟子さんが出てきました。
何でも良いのです。結果的にお能の面白さがわかってもらえれば。
萬斎さん、ありがとうございます。


ステージパパ

 昨日、月並能にて凜太郎が『三井寺』の子方を何とか無事勤めました。
シテは、金森秀祥師。丁寧なご指導を頂きました。
1時間以上座りっぱなしで、最後に謡がたくさんありますので、幼稚園児にはなかなか大変な役柄で、1年以上前に家元からお役を頂戴した時は、まだ早いかもとは思いましたが、挑戦できるお役を頂戴したと思って、他のお役と並行しながら、時間をかけて稽古してまいりました。
こんな時に限って、本番数日前から、右足にケガと水いぼが!右ひざを下にして、左膝を立てて長時間座るのに。
夫婦で「たいしたことない」と本人に言い聞かせて(思い込ませて)、無理矢理勤めさせました。
子供には本当にやきもきさせられます。自分のことならば、無理が通るしどうにでもなりますが。
これからも、家族での(心の)戦いは、子方を卒業する中学生くらいまで、何年も続くのでしょう。
次回は、今月9月30日(日)水道橋・宝生能楽堂における「宝隆会」(田崎隆三師同門会)にて、『鶴亀・曲入』の子方(亀)を勤めます。
先日8月2日のMOA美術館薪能と同じく、水上達君とのコンビ再結成。また稽古が始まります。
それが済むと、来月10月20日(土)には、五雲会にて『花筐』(シテ 小倉健太郎師)の子方。
私、自分の舞台も勤めながら、最近は、ステージパパもしています。


9月15日(土)五雲会『龍田』 2

(続き)
能の後半、シテの龍田姫が「神楽」を舞います。
宝生流では、シテが神楽を舞うのは、『龍田』『三輪』『巻絹』の3番のみ。
変わったところでは、『葛城』に「神楽」という小書(特殊演出)が付くと常の「序之舞」が「五段神楽(惣神楽とも)」に変わります(本年12月1日「満次郎の会」にて、辰巳満次郎師がこの演出で舞いますので乞うご期待)。
また、『絵馬』のツレ2人が相舞で「二段神楽」(神楽の省略形)を舞いますが、これは宝生流独自の演出。
「神楽」、私は舞囃子としては度々勤めておりますが、能としては初めて。
実際に扇を弊に持ち替えて左右に振り上げ、舞います。
神様の曲を勤めるのは、恐れ多い気持ちもありますが、『高砂』『養老』『加茂』などと同様、舞っていて清々しい気持ちになります。
『龍田』の神は女神で、しかも紅葉がご神体、すっきりとして尚且つ風情がある。
ストーリーでは『三輪』にかないませんが、三番目物の雰囲気も少しあり、かなりやりがいのある曲です。
先日の新作能『散尊』のデリラ役に引き続き、この『龍田』に至るまで、この夏は特に日焼けしないように気を使いました。女子かと思うくらい。
日焼けに関しては、色々な考えの方がいらっしゃいますが、ご覧になるお客様がどうお感じになるか、を常に考えたいと思います。
『龍田』の他に、『通盛(みちもり)』渡邊荀之助、『班女(はんじょ)』水上優、『是界(ぜがい)』東川尚史、他狂言2番。
入場料5,000円(学生2,500円)
お問い合わせ・チケット購入はこちらまで。


9月15日(土)五雲会『龍田』 1

来る9月15日(土)正午より、水道橋・宝生能楽堂の五雲会において、能『龍田』のシテを勤めます。
古来より紅葉の名所として名高い奈良の龍田川。
秋も終わりに近づき、薄氷が張った川面に紅葉が閉ざされて、さながら錦のよう。
高僧(ワキ)が龍田明神参詣の為にこの川を渡ろうとすると、ひとりの巫子(かんなぎ・前シテ)が呼び止め、
「この川を渡ると神と人との中が絶えてしまう」
と忠告します。
僧は、
「龍田川 紅葉乱れて流るめり 渡らば錦 中や絶えなん」
という、古の帝の和歌を思い出しますが、今はもう紅葉の盛りも過ぎて、川面には薄氷が張っているので許してくれ、と渡ろうとします。
巫子は、
「龍田川 紅葉を閉づる薄氷 渡らばそれも 中や絶えなん」
という、藤原家隆の和歌を引いて、更に僧を制止し、別の道から龍田明神に案内します。
御神木の紅葉を見せなどして、なおも境内を案内するうちに、今まではただの巫子と見えた女性が、
「我は真はこの神の 龍田姫は我なり」
と名乗るやいなや、身体から光を放ち、紅の袖をうちかついで社壇の扉を押し開き、御殿に入ってしまいます(中入)。
社殿の前で仮寝して神のお告げを待っていると、御殿の中から龍田姫の声が聞こえ、神々しい姿(後シテ)を現します。
古来より和歌に詠まれた龍田山・龍田川を愛でて舞い、弊を振り上げて夜神楽を舞い、紅葉葉が散り飛ぶ中、山河草木国土をおさめて、龍田姫は昇天します。
(続く)