いよいよ演能空間3

(続き)

今回の能『松風』にてシテ(主役)の私が使用する面(おもて。能面のこと)は、「節木増(ふしきぞう)」。

 

最近奮発して手に入れたもので、現在宝生宗家の面の修繕・制作を一手に引き受ける後藤祐自さんという面打ち(能面作家のこと)の作品で、大変素晴らしい面です。

 

今回の『松風』の為に購入したと言っても過言ではなく、先々月に札幌で能『花筐』を舞った際にも実験的に使用しましたら、お客様の一部の方から「面が素敵だった」というお声を伺いましたので、素晴らしさを確認できました。

 

優れた面は、単体でも見る角度によってある程度表情を変えますが、演者の芸の力によって怖いほど更に表情を変化させます。

『松風』のシテとツレ(シテに伴う役)は松風・村雨という名の美しい姉妹の幽霊。昔契りを込めた在原行平(ありわらのゆきひら)を想い、泣いてばかりです。その泣く表情がどのように出るのかを楽しみにしてください。

 

また、シテの私が着る「水衣(みずごろも)」という装束も、『松風』の為に新調しました。『松風』には清浄な白色の「白水衣」をシテ・ツレ共に使用します。汚れの無い白さがこの曲の命、と思って無理をして購入。

 

このような面・装束についても、舞台を見ながら楽しんでいただければと思います。

(続く)


いよいよ演能空間2

(続き)

それから30年。宝生英雄先生でしたら、私が能『松風』を舞うなど、とてもお許しいただけなかったことと推察します。

実はこの『松風』、宝生流では特に大事にしており、私の近しい先輩方どころか、60代、70代の先輩でも舞った方は少ないのです。

私自身も、何も働きかけなければ、月浪能・五雲能などの定例公演では一生舞うことがない可能性があります。

全てを自分一人(妻の協力もあり)で企画・運営し、雑務も全て自分でやり、赤字も全て抱え込む、という覚悟の「個人演能会」でないと舞えないと判断しました。

 

「何も(未熟な)今やらなくても」「分不相応」

 

と先輩方には思われていることでしょう。

しかし、それでも『松風』を舞いたいという強い意志のもと、進めました。

 

きっかけは2年前からのコロナ禍でした。最初の緊急事態宣言では、全く舞台出演が無くなり、また、お弟子さんの稽古もできなくなり、まず完全に無収入になりました。その後お弟子さんのありがたい助けもあり、オンライン稽古で稽古を続けていただくことで生活はなんとかなりはじめましたが、ショックを受けたのは、私よりも若い狂言方の善竹富太郎さんがコロナで亡くなったことです。これにより、直後に控えていた15周年の「涌宝会(ゆうほうかい。お弟子さんの発表会)」を中止し、その直後の「第7回 和久荘太郎 演能空間」も、チケット販売しておりましたがあえなく中止として、払い戻し作業に追われました。

 

富太郎さんが亡くなり、私自身も「死生観」を考えるようになり、「人間はいつ死ぬかわからない」という自分自身の覚悟を持ったのです。

決して「やぶれかぶれ」ではない、静かな死生観。60代、70代まで大事な曲のお役が付くのをただ待っていたのでは、舞いたい曲も舞わずに死んでいくかもしれない、だったら、批判を恐れずに自分主催の催しで責任を持って大好きな曲を舞わせてもらおう、と思いました。

(続く)


いよいよ演能空間1

9月に入り、能『松風』の稽古にもいよいよ本腰が入ってきます。

9月18日(日)宝生能楽堂にて開催の「第8回 和久荘太郎 演能空間」。一昨年に第7回をコロナ禍でやむなく中止にして以来の開催。

「斯道(しどう)30周年」と題して、大曲『松風』を舞わせていただきます。

 

今の宝生宗家・和英師のお祖父様にあたる宝生英雄師に内弟子入りして今年が30周年にあたります。

能の家の出ではない私を住み込みの内弟子にしていただき、先生の晩年ではありましたが、身の回りのお世話も一番下っ端の私が随分させていただき、先生の発する何気ないお言葉のひとつひとつが大変含蓄あり、勉強になりました。

(続く)


名古屋宝生会「蛍火能」(令和4年6月19日日曜日)

 

来たる6月19日(日)名古屋能楽堂にて、「名古屋宝生会『蛍火能』」が開催されます(詳細は上の画像をクリックしてご覧ください)。

 

私は、最初の解説と、仕舞『鵜ノ段』を舞います。

また、仕舞3番の地頭と、能『葵上』の後見を勤めます。

 

入場料 一般 5,000円、学生 2,000円。

当日券も販売いたしますので、ぜひご来場ください。


能『祇王』ツレ(6月18日土曜日五雲能能)

6月18日(土)五雲能(会場 宝生能楽堂)にて、能『祇王』のツレを勤めます。

 

シテは3歳年上の大友 順さん。私の役は曲名にもなっている「祇王御前」。シテの役は「仏御前」。見どころは二人の相舞(あいまい)。舞台を半分ずつ使って同じ舞をシンクロして舞いますが、この曲は完全に息を合わせる必要は無いと、私個人としては考えています。

 

足数(歩数)などは取り決めますが、その中で個性をお互いが発揮しつつ、拮抗して舞うことでこの曲の面白さが出ると考えます。

 

『二人静』の相舞だけは、完全に合わせる必要がありますが、この『祇王』や『小袖曽我』は競い合う面があると思います。ちなみに、宝生流では『二人静』は16世家元宝生九郎先生が廃曲とし、現在は上演されません。

 

面(おもて。能面のこと)を掛けると、並行に動く相手の動きは全く見えませんので、念入りに取り決めて稽古をします。

 

『祇王』は15時過ぎ開始の予定。五雲能は13時開演、18時前終演。番組の詳細はこちらをクリックしてください。ご来場を心よりお待ちしております。


能『松風』を舞います(第8回 和久荘太郎 演能空間 9月18日(日))

 

 

本年(令和4年)9月18日(日)に、「第8回 和久荘太郎 演能空間」を主催いたします(会場 宝生能楽堂)。

 

2年前の7月にコロナ禍で「第7回」を中止にして以来。実際には、3年前の令和元年に「第6回」にて能『烏帽子折』を息子と勤めて以来の演能空間となります。

 

今回は、「超」のつく大曲、『松風』を舞わせていただきます(詳細は上の写真をクリックしてご覧ください)。

 

この道の玄人としての修行を始めて30年記念。先先代宝生宗家・宝生英雄先生の住み込みの内弟子となって30年、ということですが、その節目・記念として、大曲に挑みます。

 

ぜひご高覧いただきますよう、お願い申し上げます。

 

チケット販売開始は6月20日(月)。当サイトからお求めいただけます。また、細かい座席指定でお席をお選びになりたい方は、カンフェティからお求めください。

電話でのご購入は以下からお願いいたします。

お電話予約: 0120-240-540*通話料無料(受付時間 平日10:00~18:00※オペレーター対応)


6月5日(日)「東京涌宝会大会」

 

ご無沙汰しております。数ヶ月ぶりの投稿です。相変わらず元気にやっておりました。

 

さて、来たる6月5日(日)宝生能楽堂にて、「東京涌宝会大会」(和久社中発表会)を開催します。

 

9時半開演、19時半終演予定。

能『巻絹 五段神楽』シテ 松原節、ツレ 足立耀

能『黒塚』シテ 星野尚香

一調『松虫』謡 大庭清司、小鼓 飯田清一

一調『起請文』謡 坂本盛夫、大鼓 亀井広忠

他、舞囃子13番、独調4番、素謡6番、仕舞12番、独吟2番、連吟1番

 

会の最初
(第一部)に、私は番外仕舞『弱法師』を舞います。

また、第二部の最初に娘に仕舞『八島』を舞わせます。

 

入場無料(撮影・録音は著作権法に抵触しますので一切禁止です)ですので、お誘い合わせの上、感染防止対策にご協力いただき、是非ともご来場ください。

 

なにしろ、上演時間は10時間ですから、全部ご覧になることは不可能かと思います。一部をご覧いただければと思います。


学生能『小袖曽我』大成功

ああ、久しぶりのブログ投稿。

 

相変わらず元気に生きていました。「元気なのか」「精神的に病んでいるのでは」と憶測が飛びますが、なんのことはありません、「投稿する気分じゃなかった」だけのことです、一部の方にはご心配おかけして申し訳ありません!

 

さて、やっと投稿する気になりました。本日は、名古屋能楽堂にて学生能の会。能『小袖曽我』が上出来で、嬉しくなりました。

 

立役の6人(十郎・五郎・母・トモ・団三郎・鬼王)はもちろんのこと、地頭・地謡も全て学生のみで構成。後見には私と、現在宗家内弟子修行中で元学生能メンバーの石塚尚寿さんが出ました。

 

後見に出ていながら、なぜか目から一筋の水が流れ落ちました。一年越しで指導し、成長を見てきていますから、私も感無量です。

 

遠方などからも卒業生が応援に駆けつけてくれました。また、皆の母親世代の卒業生も着替えなどにお力添えいただき、大勢の人のご協力のもと、大成功をおさめることができたことに、私からも感謝申し上げます。

 

他に、舞囃子や仕舞、そしてそれぞれの地謡も本当に良く出来ました。青春の一コマとして皆の記憶に残ることでしょう。

 

おめでとう!


謹賀新年

みなさん、あけましておめでとうございます。

本年も何卒よろしくお願い申し上げます。

和久荘太郎


『道成寺』おかげさまで①

一昨日の11月21日(日)、「日本全国能楽キャラバン!名古屋宝生会特別公演」にての能『道成寺』、おかげさまで怪我無く無事に舞い勤めることができました。

ご来場いただきましたお客様には、心より感謝申し上げます。

 

鐘入りが思いのほかうまくいったようで、お客様をはじめとして、楽屋内からもご賞賛いただきました。これは自画自賛ではなく、全く鐘後見である辰巳満次郎師のお力によるものです。様々な秘伝の見計らいと、シテのそのときの精神・体調・疲労状態を見極めて、いざ鐘入りのときは、シテとの呼吸をひとつに合わせて鐘を落とす必要があります。シテの私にとっては、辰巳師に命を預けたも同然。心より信頼して飛び込むことができました。

鐘入りの際に、過去には他流などでは骨折はおろか粉砕骨折や脱臼などで、鐘が上がったあと舞い続けることができなくて、後見が急遽代役するような例もあり、とかく大怪我が付き物なのがこの曲の眼目である「鐘入り」なのです。

 

12年前の披き(ひらき。初演のこと)のときは、朝倉俊樹師に落としていただき、このときも大変好評をいただきました。これも全き鐘後見の力によるものです。

 

「鐘入りのときに、鐘の中で頭をしこたま打ち付けると良い鐘入りとなる」ということが古くからまことしやかに言われますが、本当にそうでしょうか。そんなことを鵜呑みにして目標にしてしまったら、100キログラムある鐘の落下に加えて上に飛ぶ力により、失神してしまうか、命も危ういことになりかねません。頭を打たないで高く飛ぶ飛び方があるのです。幸い、2回とも身体の一箇所といえども打つこともありませんでした。(続く)