父のこと

今月末、父の祥月命日があり、他界して10年になります。
私の父は、能楽師ではなく、普通のサラリーマンで、いわゆる転勤族でした。名古屋ではなく関東の生まれで、父の転勤に伴って、家族も横浜から小田原・東京・仙台・名古屋と移動したのです。
野球と時代劇をこよなく愛し、子供から見てもちょっと優しすぎるのでは、と思うくらい穏やかな優しい人でした。
私の妻とは、生前何度か会っていて、父は大変気に入っていましたが、結婚式に出ることなく他界してしまいました。
まだ私が内弟子修行の真っ只中で、舞台出演(能『鞍馬天狗・天狗揃』の天狗役)の為、博多行きの飛行機に乗り込むタラップで携帯電話に訃報を受けましたが、舞台人の宿命でもあり、顔を見ることなく、別れました。
もう少し長生きすれば、孫を抱くこともできただろうに、私が一本立ちしたところも見せてやれただろうに、と時々思います。
親孝行したい時に親はいないと言いますが、本当にその通りです。
今こんなことを思うのは、私が父親になったから。いや正確に言うと、父親の自覚がやっと出てきたから。
子を思う父親の気持ちというものを考えた時に、どうしても故人に想いを馳せてしまいます。
毎晩布団の中で面白い話を聞かせてくれて、子ども達は大爆笑してニコニコ眠りにつく。
今私は同じことを自然にしています(毎晩ではないのが残念ですが)。
(つづく)