エスカレーターと能の拍手 一考察

最近、このポスターに目が行きます。

このキャンペーン、形は多少違えど全国展開しているようです。これはうまくいけばとても良いことだと思いますが、どうやらなかなか普及しませんね。

片側空けの歴史は結構古いそうで、日本はもとより海外でもわざわざマナーとして啓蒙(または自然発生的に)して普及したようですから、意識改革は容易ではないようです。

 

昨日は、ある仕事で大阪の日帰りだったのですが、彼の地でも全く普及していません。

私の知る限りでは、名古屋は比較的他の地よりもこの新マナーが見られる場所が稀にあります。

東京は、といえば、ほとんど見られません。

 

エスカレーターの歩行が原因の事故が年々増加しているので、真剣に考えなければならないと思います。が、あまり急いで強く推進すると、この件に関する考え方の分断が起こりそうでなんだか嫌だなと思っています。

 

この事例に似ていると感じるのが、能の拍手のマナー。初めて能をご覧になる方は、どこで拍手をして良いかわからない、というお声が必ずありますので、昨今は事前解説の中で提案することがありますが、そもそも拍手の決まりなんかないはず。

 

権威主義は全てが否定されるものではありませんが、例えば「本来は拍手は日本の文化ではないから、しないのが本当」と言ってしまうと、思わず感動のあまり拍手をしてしまった方(またはその注意を偶々聞いていなかった方が拍手をしてしまったとき)に、それ以外の多数のお客様はその方にかなり冷ややかな視線を浴びせることになります。

これは、実際に私も何度か見ている(観客として座席に座っているときにも)ことで、能をせっかく楽しくご覧頂きたいのに、お客様の中で分断が起こり、イヤな空気が流れてしまうのはとてももったいないことです。それ以来、私は拍手のことは明言しないようになってしまいました。

(もっとも、演者の側が拍手についてお客様にとやかく言うことがおこがましいのでは、と最近思います。ここは、演者ではない側の、金子直樹氏のような柔らかい語り口の解説者がご提案、という形でお話しをするのが良いかと。)

 

都内のある能楽堂の主催公演では、徹底してまるでお客様が教育されているかのように、演者が全て幕に入ってから拍手が起きることがほとんどで、マナーの良さに感服しますが、実は内心、なんとなく違和感を感じております。いわゆる、「同調圧力」という臭いを感じてしまうからでしょう。

 

エスカレーター問題でも、新マナー普及のスピードが意識改革に追いつかないと、いずれエスカレーターを歩行する人に罵倒する人が出るなどのトラブルが発生するのでは、と心配するのは杞憂でしょうか。