卯の花
妻の実家の庭先で、季節はずれの雪かと見紛うほど白く咲いていた、「卯の花」です。
その名の通り、旧暦の卯月(現在の5月頃)に咲く花で、今月14日の五雲会にて勤めます『雲雀山』にも、
「頃を得て。咲く卯の花の杜若」
と謡い込まれています。
「卯の花の垣(垣根)」と「杜若」が掛かっています。
他曲では、
『杜若』のキリ(終曲部分)、
「袖白妙の卯の花の雪の」
『六浦(むつら)』のクセの中、
「咲き続く卯の花の垣根や雪に紛うらん」。
また、『歌占(うたうら)』のキリに、
「時しも卯の花くだしの、五月雨も降るやとばかり」
とあります。
「卯の花くだし」は、「卯の花腐(くた)し」や「卯の花朽たし」または、「卯の花降し」とも書き、文字通り卯の花を腐らせる程の長雨、つまり五月雨(梅雨)のこと。
正確には、「梅雨の走り」または、「走り梅雨」と言って、梅雨の前の一時的な長雨のことを指します。時期は、5月中旬から梅雨入りにかけて。
年によって、梅雨の走りがある年と無い年があるとのこと。
さて、今年は梅雨の走りはあるでしょうか。
『歌占』、本年7月16日の五雲会にて、シテ・今井泰行師、私はツレを勤めます。
突然死して地獄を見て生還して以来、白髪になってしまった占い師の男(シテ)が、偶然に生き別れた息子(子方)と対面し、地獄の曲舞(くせまい)を舞って見せます。
私は、その子供を伴い諸国を歩く男の役で、ワキ方(脇役専門の役者)が勤める流儀もありますが、宝生流ではツレ(シテに準ずる役)で、我々シテ方が勤めます。
能に触れていると、コンクリートに囲まれた現代に生きていても、僅かな季節の移ろいを謡と共に感じることができますね。