いよいよ演能空間4

(続き)

今回の「和久荘太郎 演能空間」のテーマは、「車尽くし」。そんな日本語は存在しないのですが私が勝手に名付けました。演目それぞれが「車」に何かしら関わっています。

 

能『松風』には、この曲専用の「汐汲み車」という美しい小ぶりの作り物が登場します。須磨の浜辺で海水を桶に汲み、それを焚いて塩を精製するために汐汲み車に載せて運ぶさまを表しています。

水は重く重労働ですから、実際にはリヤカーのようなものでしょうが、能らしく美化して象徴的に表現します。

 

最初の一調『土車』はその名の通り、土を載せて運ぶ、やはり労働の車。それに人(子方)を乗せて運ぶ、というのはまるで『子連れ狼』を思い起こさせます。

『土車』は、現在宝生流には能としては残っていませんが、あまりに謡が良いのでその一節を残した「蘭曲(らんぎょく)」と言われる重い習い物として伝わっています。元々の能『土車』には、車の作り物が出てきたようです。

 

仕舞『笹之段』は、能『百万』曲中の有名な舞いどころ。やはりこれも昔は車(山車)の作り物を出したようです。念仏を唱えながら女物狂(おんなものぐるい。芸能者のこと)が芸を見せる『車之段』に続く『笹之段』は、物狂の象徴である「笹」を手に、車を引きつつ舞を舞います。

 

狂言『鈍太郎』の車との関わりは種明かしをしません。最後の幕入りを楽しみにご覧ください。

(続く)