三保羽衣薪能
来る10月12日(土)16時半~19時半頃、静岡市清水区三保の「羽衣の松」前特設舞台にて、「第30回 三保羽衣 薪能」が催されます。
能『羽衣』
シテ 佐野由於
ワキ 安田登
狂言『樋の酒』
シテ 三宅右近
能『船弁慶』
シテ 佐野登
子方 和久凜太郎
ワキ 安田登
ご存じの通り、三保の松原は先ごろ世界遺産に指定され、この催しも大変盛り上がりを見せていて、全席完売だそうです。
凜太郎に、初めて『船弁慶』の子方のお役(義経役)をいただきました。
小学1年生にはかなり難しい役ですが、長期計画で稽古しております。
先日の第1回和久荘太郎演能空間では、この役を敢えて息子を使わず、名古屋在住の片桐賢君(小学4年生)にやってもらいました。
ご覧になった方は良くお分かりと思いますが、大きな声が出て、堂々と義経役を勤めて、これからが楽しみな子方です。
なぜ自分の息子を使わないのか、と各方面から度々ご質問をいただきましたが、凜太郎は東京では、3歳で初舞台を踏んで以来、毎年たくさんの役を既に頂戴しておりますので、名古屋の子方に機会を与えたい、という考えと、私自身が息子と共演すると、自分の演技の集中力が欠けると判断したからです。
子方は、ただ舞台を勤められれば良いものではなく、本番に向けた体調管理や指導・稽古を家族一丸となって進めていかなければなりません。
なにしろ今回は、演能空間自体が「第1回」でしたので、我々夫婦も準備に手一杯になり、万全の態勢で凜太郎に舞台を勤めさせることができないだろうと予想しました。
また、「お客様の目」というものを大事にしたいと考えているのです。
これは、人によって考え方が違うと思いますが、「親子共演」になると、どうしてもお客様も「静御前と義経」または、「知盛と義経」という舞台設定に、「父と子」という、親子関係を垣間見てしまい、舞台鑑賞に差し支えると考えました。(これが、『歌占』や『隅田川』のように、劇中も親子関係であれば、また違うのでしょうが)
これは、私自身常に感じていることで、他流の能を忍んで拝見するときでも、どうしてもそのような感情が良くも悪くも邪魔をして、能の「演劇」としての部分に集中力を削がれます。
私のお弟子さんや関係者は、私と凜太郎の親子共演を単純に喜んでいただけると思いますが、そればかりではないはずです。
能を「演劇」として捉えた時、親子を超えた演技ができれば良いのかもしれませんが、それでも、一部のお客様には、「親子」として見る雑念が入ることでしょう。
以上のような理由から、先日の演能空間では、凜太郎に子方をさせずに、名古屋の片桐賢君にお願いしました。自分でも正解だったと思います。
しかし、すぐに次の月に凜太郎に同じ『船弁慶』の子方のお役を頂戴したので、演能空間では、見所(けんしょ。客席のこと)から勉強させました。
三保羽衣薪能では、初役で、しかも能楽堂ではない野外の薪能。ピンマイクを使うことでしょう。全てが初めてのことですので、私も心配です。
私は、『羽衣』の地謡と『船弁慶』の後見にて出演します。