乱・和合(9月27日土曜日「時の花」)
来る9月27日(土)16時開演 企画公演「時の花」(宝生能楽堂)にて、『乱・和合(みだれ・わごう)』という希曲を勤めさせていただきます。
「乱」とは、能『猩々(しょうじょう)』の小書(こがき。特殊演出)で、通常は「中之舞(ちゅうのまい)」というポピュラーな演奏で舞を舞いますが、それに代わり「乱」という緩急複雑な舞が挿入され、波の上を歩行する独特の型「乱れ足」を駆使して、海に浮き沈みする酒飲みの妖精「猩々」を面白く表現します。
しかも、宝生流では、曲名も『猩々』から『乱』に変わってしまいます。
今回、その『乱』に更に「和合」という珍しい小書が付きます。
「和合」とは、おそらく「夫婦和合」でしょう。猩々が雌雄登場して、相舞(あいまい。シンクロ)を舞います。
私が「男シテ」、高橋憲正氏が「女シテ」。これを「両シテ」と称して、お互い同格に勤めます。
(ちなみに、両者同装で登場するので、どちらがどちらか、判別が困難かもしれません。小柄な方が私です)
東京・水道橋の宝生能楽堂では、約30年ぶりの上演。大変珍しいものです。
相舞は数多くあれど(『小袖曽我』の十郎・五郎、『鶴亀』の鶴・亀、『祇王』の仏御前・祇王、『嵐山』の木守・勝手、『絵馬』の女神・男神など)、宝生流の『乱・和合』はちょっと特殊。
通常、相舞は、お客様から見て、同じ方向に動いて全く同じ動きをしますが、『乱・和合』は、初めは同じ方向に動いていますが、乱の舞が始まると、お客様から見て鏡写し(線対称)に動きます。
しかも、途中複雑に入れ替わり、雌雄互い違いの型をしたりして、お客様の眼を楽しませます。
今回、更に特殊な演出があります。かなり専門的なことですので、詳細を述べるのは省略しますが、「乱」の舞の最初は通常の「中之舞」と同じ始まり方なのですが、「乱」に導入する部分で、「中之舞」の演奏からゆるやかに、しかも突然「乱」に入るようなイメージになります。
この演出は、「呂掛り(りょがかり)」と言い、おそらく、明治の末に、名人の竜虎と言われた「松本長・野口兼資」のペアで上演されて以来の演出(16代宝生宗家・宝生九郎知栄が監督)で、当時の伝書を掘り起こしての作業となりましたので、研究を重ねて、家元や幹部とも相談しながら、念入りに囃子方とも申し合わせております。
特に、お囃子に詳しい方には、大変興味深いものとなるでしょう。
そして、また珍しいのが、笛の流派が「森田流」であること(杉信太朗師)。東京の宝生流では、森田流を相手にした『乱・和合』は、記録にありません。
終演後、「能楽余話・友と好敵手」と題して、同世代の各流若手能楽師(喜多流・大島輝久、観世流・坂口貴信、宝生流・高橋憲正、金春流・中村昌弘)が舞台上で、能楽評論家の金子直樹氏の司会のもと、トークを致します。
今回、珍しいこと尽くしの企画公演「時の花」。ぜひご来場ください。
お問い合わせ・お申し込みは、当ホームページ、または宝生能楽堂(03-3811-4843)まで。